へき地医療は“医療の最前線”のフィールドだ [専攻医✕指導医クロストーク]

Our Field Vol.3

地域に飛び込んで人間を学ぶ

“主治医としての責任感”

 周囲のサポートが覚悟をつくる


岡本:専攻医として医療現場に携わり約半年ですが、正直戸惑ったことも多かったです。「研修医の頃とは仕事がちがう!」と思いました。研修医の頃はそばに専門医の先生がおられましたし、その他にも多くの人がいて、何でもすぐ聞けばすぐ教えてもらえました。

 

でも今は自分が「主治医」ですから、1から10まで頼らずに、自分で判断することは自分で責任を持って判断をしなくてはいけない。

 

私が赴任する前からの入院患者さんが、病状は安定していたのですが、肺塞栓症になり検査が必要ということで、私ひとりで検査から全ての対応をおこなうことになって、その時は焦りました。

 

 

もちろん、急変したときは先生お二人にもヘルプをお願いしましたが…。

 

片山:そんなことあったっけ?(笑) 岡本先生は、しっかり自分で調べているので的外れな質問は何もないですし、記憶にないほど問題もなかったですよ。

 

研修医から3年目という時期は医師としていよいよ大きく変わる時期です。「責任をもつ」重さを受け止めていくことが医師への大きな一歩です。

 

岡本:よかった(笑)。「主治医として診断の最終決定をする」のは覚悟もして想像もしていましたが、それ以上の重みでした。長い目で見ればこのような経験を早くから積むことができて、絶対自分の将来に力になる、と言い聞かせてます(笑)

 

長沼:そうですね。私も専攻医1年目で終末期の意志決定を判断するケースに出会いました。ご本人が意思決定できずご家族も「先生がプロなので良いようにしてください」と。

 

なかなかどうすればいいかわからず、倫理委員会にもかけてもらいました。

医師なら今後ずっと続くテーマに、早くに出会い、これからもずっと向き合っていく決意を深めたのを覚えていますね。

 

岡本:先日は、ご飯を食べられなくなった90歳代後半の患者さんについて、胃ろうをつくるのかこのまま看取るのか、という局面で「先生が決めてください」といわれました。

 

その時は「ご本人の思いや気持をいちばん知っているのはご家族なので、一緒に考えましょう」と、ご家族との話し合いを重ねました。

 

長沼:いまはもう、医師が客観的に判断するという時代ではないですからね。その人らしさ、残されたご家族の思い、全て含めて医師は寄り添っていく力が必要ですね。


総合診療専門医へのリアルな一歩

身近なお医者さんは

背景まで診る総合診療医だった


片山:「総合診療医」という言葉はまだポピュラーではないですが、そもそも最初に思い浮かべる「いいお医者さん」…医師を目指す多くの人がイメージする「人の役に立つ」「困っている人を助ける」医者像は、総合診療医に近いのではないかな。

 

岡本:私も故郷は山梨で、専攻医が派遣される診療所の近くで育ったので、そこで働くドクターがイメージの原型なんです。だから、自然に、科を問わず色々な疾患を診られる医師、が目標になりました。

 

長沼:私は都市部で育ちましたが、祖父が山口の山間部で開業していました。

へき地の住民の医療を支える祖父のようになりたいという想いで、医師の道を選択したんです。へき地での医療はどのようなニーズがあるかと考えると、それは「総合診療医」だろう、という選択でしたね。

岡本:ひととおりの病気は答えられる医者、になれるのは大きな強みですよね。

 

もうひとつ、この「総合診療医プログラム」の大きな利点は、この課題に沿って勉強していくと「その人の生活に意識を向ける」というスキルが身につくことです。疾患だけではなく、患者さんの様々な背景や社会的・心理的要因などをポートフォリオのようにみて気付くことは、とても重要なポイントだと思います。

 

医学だけではない、そのような視点をしっかりと勉強できることは、他のコースとは違う点だと思います。


へき地医療だから実現できる「成長」

生活に一番近い医者として

元気な姿を見られることの喜び


岡本:へき地医療の楽しさ、やりがいってどこだと思いますか?私は、生活に一番近い医者だなというところですね。治療をして患者さんが元気になる、その生活する姿が見られることです。

 

長沼:生活と共にあり、人生を共に歩む。美和に赴任して2年半、だんだんその人の人生や考え方がつかめるようになってきました。

 

へき地なので病院がここしかないことも、接する機会が多い要因だと思います。その人がどういう生活や人生をおくりたいのか、それぞれのベストを探りながら診ていく。

 

片山:患者さんが元気になっていく姿が想像しやすい、地域住民の方たちともつながりを強くできる。これは都市部ではできない、小さな地域ならではですね。「長寿の里・美和」という地域コミュニティサロンが10年くらい続いています。

これは事務局が当病院で、住民の方と年に3~4回広報を配布し、健康に関するセミナーや体操教室なども開催しています。

 

岡本:先日、そのサロンの企画で「高血圧予防」のレクチャーをしました。10名くらいの参加者でとても活発に質問がでましたね。今健康で気にしていなかった方も「気をつけよう!」と、注意喚起の機会になりました。

 

私もとても勉強になりました。これから取り組みたいこととしては…風疹のワクチン接種を実施したいなと思うのですがいかがでしょう。接種していない世代対象者は無料にして、東京オリンピックまでにやってほしいなと考えたのですが。

 

片山:それはいいですね!いいところに気がつきましたね、すぐやりましょう!こんな風に、若い人の良いアイディアがすぐに実現できるから、地域の人の健康にすぐ繋がる。

このフットワークとスピード感も、へき地地域医療の良さですね。

 

長沼:帯状発疹の予防ワクチンを打っていただくのも推進しています。高齢者が多く、薬もたくさん飲まれている方が多いなかで、この上痛い思いや強い薬での治療が加わるのは辛いのではないかとの考えからです。

 

病院もできることで健康維持活動や予防活動をしたいですよね。


現場で生きる総合診療医=人間を学ぶ先輩とともに

家族と地域

支えあって医師になる


岡本:へき地でのワークライフバランス、ということですが、まだまだ将来的なことは決められないですね。

 

もっと経験を積んで、専門は何をとるか、どこでその研修を受けるか…未来は未知数です。そこから将来何をするかを見極めていきたいと思っています。

 

大学卒業と同時に結婚しまして、夫も同級の専攻医で、ともにこの地域に赴任しています。「幅広く患者さんを診られる医師になりたい」という目標の医師像はだいたい一緒なので、励ましあいながらがんばっています。

 

どちらかが凹んでいると、どちらかが励ましています。日常の家事も2人で全く半々なのでやりやすいですし、緊急呼び出しがあっても理解があるので大丈夫です。

 

休日などもふたりでとれることも多いので、広島へ遊びに行ったりします。途中で呼ばれることもあるので、後ろを気にしながらですけど(笑)先生方は、休日はどうされていますか?

片山:休日は完全に「お子さま感謝デー」(笑)。買い物に行ったり、子どもの好きなところに行ったり。

 

長沼:休みが取りやすいのは実感しています。大きな病院の時とは大違いです。長女が昨年生まれたときに、当直の交替などもずいぶん配慮していただきましたし、今も子どもや家族との時間をしっかりとることができていますね。生活しやすい環境ですね(笑)

 

岡本:総合的に、「長州総合診療プログラム」での実習は、多種多様な人や疾患を診られる・家族・地域を診られるプログラムですし、「万全なサポート」「ワークライフバランスの充実」など、自分の生活もしっかり歩める。

 

ひとりで背負うことも大きいですが、どの病院の指導医や先輩医師の先生方もだいたいみんな優しいですから(笑)、大丈夫です。

 

地域に出たら、支えてくれる人がいます。ぜひ、興味のある方は飛び込んでいただきたいです。

 

長沼:そうですね、基幹施設の山口県立総合医療センターにいつでもすぐ電話相談できる「ホットライン」がありますし。サポートは24時間OKです。「先進医療の最先端技術が欲しい」とか「24時間365日戦いたい」タイプの人には少し退屈かもしれませんが(笑)、そうでないひとは安心して学んで欲しいと思います。

 

片山:私は「飽きっぽい人」がいいと思います。ひとつのことを突き詰めていくというよりも、臨床でも臨床以外でも様々な場面での裁量やリーダーシップを求められるから。そのような運営や企画なども含めてどんどんチャレンジを楽しめるような、そのような環境だと思います。