へき地医療は“医療の最前線”のフィールドだ [専攻医✕指導医クロストーク]

Our Field Vol.1

地域に飛び込んで人間を学ぶ

未知のフィールドが

総合診療専門医の私を誕生させる


市村:僕はこの豊田町へ来て半年です。実はもっと過疎地区で人もいないところかと思っていました(笑)でも「案外人がいる」「街もある」「若い人もいる」これなら全然住める!と思いました。案外、飛び込んだら心配しなくてもいいものですね(笑)

 

 篠原:市村先生は最初の自己紹介で、とても凝った自己PRスライドを作ってきて、気力も体力も勢いがあるのがきたな、元気な先生が来たな~と(笑)そんなユニークさがパワーになっていますよ。

 

そんな市村先生も、研修医から専攻医として主治医になって、この半年はやはり「答えの出ない問題」を自分で感じ悩みながらがんばっているな、と思っています。私自身は、前任地が萩市の離島で2年間1人診療所に勤務でしたから、ここはそばに仲間がいるだけで嬉しい(笑)。

豊田中央病院は下関市北部で唯一入院施設がある「北の砦」の医療機関として、事務の方や他の医療スタッフとの協力体制とコミュニケーションがとてもいいです。

 

ワークライフバランスもとりやすい、プライベートもしっかり休めるので生活を楽しめています。都会にはない働きやすさかもしれません(笑)

 

 

吉富:へき地医療を志す医師が3人もひとつの医療機関に揃っているのは、山口でも数少ない、充実した環境ですね。

 

市村先生は初めてのリアルな赴任地で、いい意味でしっかりと環境を受け入れて馴染んでいますよね。病院とも患者さんとも、とても自然に溶け込んできていると感じています。

 

篠原先生はここで2年目。前任地の経験もあって、総合診療医やへき地医療に対して深い問題意識や使命感が明確にあって勤務されています。訪問看護や地域包括ケアにとても意欲的で、篠原先生の活動によって様々な連携が実現していますね。

 

老若男女何でも診られる能力があり、的確な判断と迅速な対応ができる総合診療医は、へき地地域だけではなく今後の日本の高齢化社会や日本全国都市部にも確実にニーズが大きくなるはずです。

 


総合診療専門医へのリアルな一歩

病気を診るのではない。

患者さんのLIFEに向き合う


市村:この半年でまず感じたのは、「主治医」として自分が患者さんの治療の判断をするということの責任と喜びですね。外来患者さんで、治療がうまくいって「次の診療は2ヶ月後で大丈夫ですよ」と伝えたら「先生に会いたいからもっと早く来たいです」と言われたことは嬉しかったです。

 

ふつう「先生に会いたいからもっと病院来たい」なんて言わないですよね(笑)僕の理想の医師像は、親しみがある「そばにいる先生」。苦しんでいる人がいれば、とにかく診る、だから気軽になんでも相談できる、そういう「医師らしくない医者」になりたいと思っているんです。

 

篠原:総合診療医のモデルだね。この「長州総合診療プログラム」をうけて「病気」だけを診るのではなくなった、というのは大きいですね。以前の私は、疾患を治療することだけを考えていました。

 

病気だけを治療すれば患者さんは幸せになると思っていたんですね。でも今は「この人はなぜ病院に来るようになったのか」を考える。

病気だけではなく、患者さんや関わる家族にとって幸せとは何か。それを模索するため、家庭医療学の技術である「患者中心の医療の方法」などを大切にするようになりました。

 

赴任したときに担当した末期癌の患者さんを、在宅の看取りができたことが心に残っています。緩和ケア体制に入り、在宅で最期を迎えたいという意志をもっておられたので、ご家族とともに看取ることができました。

 

グリーフケアの目的もあって四十九日過ぎにお悔やみ訪問をしたときに、お嬢さんが「先生に最期まで看ていただいてよかった、母も喜んでいると思います」といわれたことが、心に深く残っています。

市村:研修医のころとちがって、死を前にした患者さんを主治医として診るのはプレッシャーでしたね…。

 

篠原:口から食事をとれない患者さんが多くて、どうしたらいいかも悩んでいたよね?

 

吉富:患者さんとご家族の人生をこれからどうやって考えていけばいいのか、病気が治ってもその後の生活まで考えるのが私たち。

 

患者さんの生活や場合によっては人生や価値観に寄り添い、望む治療を行うことが必要です。それには患者さんとのコミュニケーション力は非常に重要です。

 

篠原:高齢化に伴って、たくさんの疾患を抱えている患者のケースはますます増加していきます。それを全部専門医で対応するのは患者さんにとってとても負担です。

 

また、「経済的」「社会的」「人間関係」など医療で解決できない問題が要因となっているケースも多い。そのような視点も含めて「人を診る」ことが総合診療医ではないでしょうか。


へき地医療だから実現できる「成長」

チームワークで臨機応変。

職種を越えたスクラムで成長する


市村:ここで自分が成長した、と思うときはどんな時ですか? 僕は、周りを見られるようになった、医者だけではなく看護師や他の医療スタッフとも関係性を築くことができるようになったのが、他の人に気配りができるようになって「成長したな」と思っているんです。

 

病院内でも看護師さんや介護スタッフとこんなに話をして、「一緒に働いている」喜びを感じることって今までありませんでした。ともに働く仲間がいるって、いいですね。世界が広がって楽しいです。

 

篠原:そうですよね。僕も以前はついついなんでも自分で抱え込むことが多かったように思います。

 

でも診療所勤務を経験してひとりでは解決できない問題に多く直面したことをきっかけに、今は「周囲を頼る余裕を持つ」ことの大切さを感じながら仕事ができるようになってきたと思いますね。

吉富:都市部の大病院や大学病院などの多くは、医者は医者とだけ話をするだけで世界が完結していますよね。

 

でもリアルな患者さんの生活は、家族や地域社会と関わって生きている。様々な人とチーム・タッグを組むことはとても重要な視点を持つことができるね。

 

吉富:人の生活や人生について考えていくとき、主治医ひとりでは答えが出せないことも多い。私たちの間でも必ず、週2回は朝カンファレンスを行い、専門スタッフが必要な場合はすぐに連携機関と連絡を取る。

 

その環境も構築している上で、病院内のスタッフ、そして地域のケアスタッフ、様々な人と連携をくめることは、「私たちにできること」のアイテムを拡げられる。責任を持つからこそ、協力する。 僕は「臨機応変」って好きなんですよ。限られた医療環境で、自分で考えて問題解決するのは、実はとてもクリエイティヴだと思っています。

 

篠原:「ニーズによって自分を変えることができるのが総合診療医」、この説明がしっくりきますね。地域で求められることを把握して、自分を変革していける。

 

小児科専門でなくても。子どもの多いところに行けば小児学を勉強して対応できるようになる。自分の枠や限界を決めずに、どんどん「人のためになる」自分に成長していくことができると思います。

 

 

 


現場で生きる総合診療医=人間を学ぶ先輩とともに

へき地医療こそ

医療最前線のフィールドだ


篠原:今の医学教育というのはスペシャリスト医師をモデルとした場面での教育がほとんどですよね。地域医療のために、患者ファーストで、という志があっても、なかなか一般の医療現場を学ぶ「モデル」が身近にいない。全国的にも、県内も徐々に総合診療に興味を持つ学生、医師が増えているように思います。

 

今後、そのような方々が安心して地域で学ぶことができるような環境、システムづくりを徐々に構築しておりますので、ぜひ地域医療に飛び込んでほしいですね。

 

吉富:総合診療医は「何でも診る」だけではなく、「病気も診る、人も診る、地域も診る」。だから、ある程度小さな病院やへき地医療の環境は、大切な経験が積みやすいと思います。

 

篠原:今私たちは下関市の地域包括ケアに関わり、健康面だけではなく人材育成などの課題にも取り組んでいます。

 

県立総合医療センターと連携し、豊田町を支える町の皆さんともつながり、これからここ豊田が「地域包括ケアモデル」になればいいと考えています。

 

市村:そういう意味でも、医療関係従事者だけではなく、地域でもっと「若い人」が集まって活動するようになれたらいいなと思います。若いパワーはやはり大きい。

どんどん新しいアイディアや活動を作っていけるようになると、みんなが元気になるし楽しいですよね。

 

篠原:若い人が楽しく働けるようには、自分たちの情報発信・広報にも力をいれたいですね。教育という視点を大切にすることで、へき地でも医師として大きく成長できる、また総合診療・家庭医療の専門医として大活躍できるフィールドであるということを伝えたいですね。

 

「へき地医療は最先端の医療ではないが、最前線の医療である」。離島の看護師さんの言葉なのですが、まさしくそれなんです。私たちは、最前線の医療を担っている。だからこそ情報発信が大切と思っています。

 

 

吉富:専攻医の教育環境は非常に重要だと考えていて、WEB会議やSkypeミーティングを活用してハード面からもサポートを整えています。県立総合医療センターでの24時間ホットラインサポートのバックアップなど、絶対「ひとりじゃない」体制で、人材育成に取り組んでいます。

 

だから、個人の「スーパーマン」でなくていい。へき地医療では「継続性」「持続可能性」が大切です。地域の中で継続できる、そして次の人にもバトンタッチができる、そうやって地域全体をささえていく力のある人材を育成したいと思います。

患者さんにも地域にも、勉強する専攻医にも「寄り添います」、それが私たちのセールスポイント(笑) 

 

篠原:総合診療医を目指す後輩には、医学部から飛び出して、様々な人の価値観にふれて欲しいです。

 

それには、「人としても医師としても成長できる当院へ、来てみること」をお薦めします(笑)

 

 

吉富:私からのメッセージは「多様性に触れる」「地域の総合診療医としてプロフェッショナリズムを大切にする」「専門性を持つ謙虚な人間」になってほしい。

 

志と希望を持つ後輩に出会えることを楽しみにしています。