へき地医療は“医療の最前線”のフィールドだ [専攻医✕指導医クロストーク]

Our Field Vol.2

地域に飛び込んで人間を学ぶ

飛び込んで走り回って。

自分で動くからスキル筋力がつく


村井:1年目の昨年は、週1回別の診療所での出張診療、週1日別病院で勉強、訪問診療や特養の訪問…病院内で外来を診られたのは週3回くらい。

 

午前中に20~30人の外来診察を主治医として担当していましたから、さすがにこの1年はほんとうによくがんばったなと(笑)振り返る間もなかったですが、今思うと、スキルも上がっています(笑)

 

岡本:今年は別の医師が診療所を担当してくれていますので、1年目の私はそこまで多忙ではないです(笑)

 

しかし、常勤の医師が内科医3人という少人数体制であり、私もいきなり主治医です。

 

最初は「自分が主治医」「自分にファーストコールが来たらどうしよう」とプレッシャーが強くてイヤでした(笑)。でもそこで村井先生に「100点めざさなくても60点取れればいいというくらいでいこう」と言われて、私も半年くらいでやっと、慣れてきました。

 

村井:専攻医あるあるです(笑)普通、大病院の専攻医は中堅先輩3~4名とチームで担当患者さんを毎日診るのですが、私たちは新しい患者さんの外来もどんどん担当しますし、簡単なら整形や外科的な処置もおこないます。初めてのことが多いのです。

 

だから100点目指すと本当に不安になってしまう。命に関わる緊急事態も来るので、今できることをすぐにしたほうがいい。そのためのサポートはしっかりありますしね。

 

岡本:だからこそ「自分の判断」を考える、その力がついたように思えます。

 もちろんカンファレンスでご指導いただき、県立総合医療センターのサポートも受け、エビデンスを確認しながら自分で勉強した知識や方法を出していく責任を持つ自覚ができてきました。

 

林:病院として、若いお二人の力にとても助けられています。3人体制という厳しい環境で、ストレスはあったと思います。しかし、「診療」について、基礎がとてもしっかりできている、と感じていました。だから、信頼してお願いできていますし、自由にやってもらえています。こちらの方が、教えてもらう事も多いくらいです。


総合診療専門医へのリアルな一歩

総合診療医プログラムは

医師の“人間力基礎教育”


村井:このプログラムって、私は「医者の義務教育じゃないか」と思っています。根本的で大切な部分を学べるプログラムですよ。現状では、医者として一流でも人として抜けている人…ってあるじゃないですか。

 

でも、このプログラムで学んだ人は「患者さんの目を見ないで診察する」なんてことは全くない。これは、これからのすべての医師に求められる力だと思います。

 

私は今ダブルボードで専門医の勉強もしていますが、将来何科の医師になっても、決して回り道でも無駄でもないプログラムだと思っています。

 

岡本:そうですね。私が総合診療医を選んだのは、大病院で専門に振り分けるのではなく、「診られることは全部診る」というところですね。

そのためには、簡単そうな病状に対しても深い理解が必要です。

 

たとえば「高血圧」ひとつでも何が原因なのか、生活習慣か心因性か身体性か、的確に見極めることができて、意味をもって投薬できる。そうしていると、どれにも当てはまらない珍しい病因にあたって、それを研究して治療する。そういう部分に可能性や奥の深さを感じます。

 

 

 

村井:常に患者さんの心理面や社会面をも診るという考え方のプログラムだよね。

 

岡本:他のプログラムは「 病気の勉強」だけど、総合診療医プログラムは「患者さんへの寄り添いかた」も勉強する。むしろ、患者さんの求めていることはそこの部分だということもありますよね。

 

村井:しかし、このプログラムのよさって、とってみないとわからない!これがもったいない(笑)総合診療医は、まだ新しくて、学生が大学病院の中でその実際の仕事を見られないのが残念です。

 

カリスマ性をもったロールモデルとなるような医師と交流が行われたり、「総合診療医ってカッコイイ!」と情報発信したり、そのような理解と魅力の発信できる機会があればいいな、と思います(笑)


へき地医療だから実現できる「成長」

多角的に広い視野を持ち、CureからCareへ

自分で考え、提案して変革する現場


岡村:錦町という地域について感じるのは…患者さんはほとんど「バスの時刻表」で生活している、ということです。本数が少ないので、朝8時の便で病院に来て、帰りは12時30分の便。それを逃すと17時までない。患者さんは10分~20分の診療のために、4時間かけてこられる。1日仕事です。交通インフラは地域と協力して解決していくべき課題ですし、また、それだけ時間を使ってこられている患者さんに対して私たちはきちんと丁寧に診察をしないといけないと思っています。

 

今医療は「CureからCareへ」といわれていますが、へき地医療ではそれを実感しますね。苦しみのなか、自分ひとりで全部を解決できなくても、1本の杖があったら毎日が少し楽になるように…患者さんらしく生きる生活をそっと支えるような医師になれればと思います。

 

村井:へき地地域の面白さは、やはり患者さんと近くなるということですね。生活全般が。訪問診療を担当しているご夫婦がおられるのですが、そのお嬢さんともコミュニケーションをよくとっていますし、ひ孫さんまで揃ったご家族新年会に妻と一緒に呼んでいただいたり(笑)

 林:それは村井先生をお孫さんのように思われているから(笑)。

 

岡村先生のお話でもそうですが、お二人の先生のスタンスが「病気を治す」だけではない気づきを大切にしている、困っていることにすっと手を差し伸べる、それが清々しく自然にできるところが素晴らしいです。

 

だから地域に溶け込んで、患者さんが「先生と一緒に生活している」という感覚になれるのだと思います。うちの外来時間は、笑い声が多いのです(笑)。すごいですよね。病院で笑い声が絶えないことなど、僕は今まで無かったですから。それだけ患者さんとのコミュニケーションが取れている、スタッフとも和やかで明るい、ということです。

岡本:医局の3人体制で、ちょうど林院長は家族のお父さんのように自分たちを見守りつつ、思ったように好きにさせてもらえているところもあります(笑)

 

村井:その他「へき地医療」として面白いと思うのは、専攻医の意見をきちんと発言でき、それが反映される、病院経営や運営についても勉強することができる、というポイント。大きな病院では点滴の指示があればそれを間違えなく遂行するだけですが、ここでは「この点滴で病院の経営はどうなるか」を考える事ができるようになります。患者さんファーストを踏まえて、どうしたら病院がよりよく継続できるかを考える機会になっている。こんな視点や考え方は、他ではできなかったと思います。


現場で生きる総合診療医=人間を学ぶ先輩とともに

生活と家庭を大切にする医師

チャレンジ、チャンス、ワークライフバランス


村井:へき地の総合診療医は過酷イメージがあるかもしれませんが、実は、ワークライフバランスがとりやすい、という大きなメリットがあります。

 

先月妻が出産のため関東へ里帰りしていたのですが、日曜日前期破水があり、24時間以内に出産ということになって。

 

大急ぎで日曜に引継の資料を作り、月曜午前中外来をして終わってすぐに「後をお願いします!」と病院へ向かいました。出産には間に合わなかったのですが、産後ずっと付き添いができて、妻に心から感謝されました。

 

このような緊急の場合なくても、当直シフトは3人で助け合って調整しています。大病院だとシフトが出てからでないと決められない旅行の計画も、さきにプランを組んでシフトを決めてもらえるので飛行機がとりやすい(笑)

岡本:無事ご出産おめでとうございます!(笑)

 

確かに、私も、なりたいのは「家庭を大切にする医師」です。プライベートも充実した、家族と幸せに暮らせている人間らしい医者がいいと感じています。私の妻は同じ専攻医なので、ともに現場のことを話したりときには愚痴を聞いてもらい(笑)家族の力にも支えられて、地域医療で役立つ自分の人生、を造って行きたいと思っています。

村井:後輩へのメッセージとしては「とりあえず、やってみたらいいですよ!」(笑)

 

長州総合診療医プログラムは、各病院に必ず信頼できる指導医と先輩がいてきちんとサポートしてくれます。県立総合医療センターのサポートも24時間ホットラインや週一のテレビ会議など、充実しているので恐れることはありません。顔の見える人たちが、きちんとみてくれている。私たちもしっかりサポートしたいと思います(笑)